心理学トピックス 1


狼少女アマラとカマラ


1920年、インドのカルカッタ村付近の山中に、怪しげな人影が出るという噂が流れました。シング牧師夫妻がその噂を確かめに行ったところ、狼の洞窟の中に2人の少女を発見しました。なんとこの2人は狼に育てられていたのです。

シング牧師夫妻はこの2人を引き取り養育しました。発見当時この2人の少女は、人間の子供というよりも、むしろ狼の子供といえるほど野生的でした。4本足で歩き、生肉を食べ(もちろん手は使いません)、夜になると目を輝かせて遠吠えするのです。推定年齢1歳半と8歳のこの2人の少女は、アマラとカマラと名付けられました。

その後、アマラは1年くらいで死んでしまいましたが、カマラは約9年間、シング牧師夫妻のもとで教育されました。彼らは少女たちが人間にもどれるよう献身的に養育しましたが、人間性の復帰はなかなか進みませんでした。1年半でやっと直立歩行ができるようになりましたが、走るときには4本足にもどってしまうのです。また、言葉の習得は特に難しい問題でした。4年目にして6語、7年目で45語、9年目でやっと3歳幼児程度の会話ができる程度だったのです。つまり、8歳まで狼に育てられた少女は、9年間の献身的な養育にもかかわらず、直立歩行も言葉の使用も完全にマスターすることはできませんでした。

人間の基本的能力である直立歩行も、コミュニケーション手段としての言葉も、決して本能的なものではありません。これらは潜在的能力と本人の努力に加えて、両親を中心とした周囲の人の献身的教育によって獲得されていくのです。つまりヒトに生まれても、人間社会の中で、人の手によって人間教育と学習がされなければ、人になることはできないのです。このことからも、人間形成において、誕生後の環境や教育がいかに大切かということが考えられるでしょう。

また、9年かかっても人間になりきれなかった事実から、基本的能力の習得には、その習得にふさわしい時機があり、それを逃すと容易に習得できないのではという説もあります。それらは現在も発達心理学の一分野として研究がなされています。




counter
book3bbook3next